5月28日(オンライン:Zoom)と29日(対面:新宿文化センター)での2回開催となりました。オンラインでは12人、対面では14人が参加しました。課題本はE. フロムの「愛するということ(The Art of Loving)でした。1956年にドイツ語で書かれたこの本は何度か改訂されつつ翻訳が出され、ロングセラーとなっています。 全体を通して難解な部分があること、時代が変化したこと、キリスト教(特にプロテスタント系)の考えが根底にあることから同性愛に対しても厳しい記述があり、読んでいて違和感を覚える箇所があるという指摘もありましたが、思想家が書いた本として受け入れ、この本を元に自分で考える…というスタンスが良いのではないか、という見方もできると思います。こういう本こそ、複数人で集まって話し合うのが良いのではないかという意見もありました。会場では神について、愛と恋の違い、友愛と異性愛の間、与えるということ…などについて話題が出ました。翻訳の改訂を重ねるごとに用語なども変化していました。 今回はオンラインの開催に関してはメンバーの方(Kojiさん:第31回の記事執筆)が議事録を作ってくださいました!そちらから少し引用すると…。 ◯精神マッチョイズム ・この本が重視している精神性を読んで「辛いな」と思う人がいるはず。 ・フロムは「イケメンはモテる」と言う考え方を批判するが、フロムの言う「技術をつけた人が愛される」と言う考え方も、結局資本主義的な考え方とさほど変わらないのでは。 ・技術を身につけるのが苦手な人にとっては、救いにならない。 ◯原題「The art of loving(愛の技術)」について ・Artを「技術」と訳することへの違和感。宗教等、何らかのバイアスがかかって翻訳されているのでは。 ・Artを技術じゃなくて敢えて「つかみどころのないもの」と訳する方が分かりやすそう。 ・元々はドイツ語で書かれた本であり、原題は「Die Kunst des Liebens」。Kunst=芸術。 ・テクニック的な意味よりも、態度そのものを表現しているのではないか。 ・KunstとArtの語源は、ラテン語の「アルス」という概念。 ・「アルス」は、人間が社会の構成人として必ず履修しないといけないものを表した言葉。 ・テクニックのような特殊な人が身につける技術という意味合いではない。 ・「芸術」のような二つの漢字が混じった言葉は、明治維新の時に外国語を無理やり日本語に翻訳していたりする。 →自分たちの持っているイメージと、原語の意味が違っていたりするよ ・翻訳(日本語→英語)もすごい重要。ニュアンスをどう伝えるか。 ◯この本の読んだ後の意識の変化(この本を読んで何をしようと思ったか) ・立場の違いが違うことは分かったが、あまり意識は変わらなかった。 ・耐えがたい孤独から、脱出できる道標になった。「愛」が最大の関心ごとになった。 ・失恋後に読み、没頭したが、あまり何も変わらなかった。 ・ハウツー本ではないので行動が変わるというよりは、内面(行動原理、倫理観)が書き換えられる感じ。 セックスについても忌避していなくて「能動的な良いsexをしなさい」と書いてある。 彼氏のことを考えるときに、依存的ではなく、気遣いを持って前向きに向き合えるようになった。 ・頭の中で大切だと思っているけど言語化されていないことが、言語化されており「大事にしよう」と思えた。 ・愛の種類を言語化してくれてわかりやすい部分もありつつ、読めば読むほど「結局愛ってなんなの?」みたいにもやっとしたものが増えた。 →もっと愛について考えるようになる、視点が増えること自体が、愛なのでは? 左:会場の様子。右:Zoomでの記念撮影 結局は意識して能動的に行動することの延長が「愛するということ(Art)」であるという主張をどう自分的に生かすかという点が重要なのではないかと思います。オンラインの議事録に、その辺りのことがまとめられています。おおむね評価は高かったですが、人によって、大変感銘を受けたという意見と、あまり何も残らない(変わらない)と振れ幅が大きいようにも感じました。
ナチスから逃れてニューヨークに移住したユダヤ系は、20世紀のアメリカの人文・社会系の学問に大きな影響を与えました。フロムもそのうちの一人です。第二次大戦が終わり1955年にワルシャワ条約機構が成立した後、西側と東側の陣営区分が明確になった中、資本主義に基づいた消費生活が浸透しつつもそこに何処か違和感を覚える…という状況下で書かれた本である背景を考慮に入れると、現代を生きる私たちにも何らかのヒントになることが多いかも?
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December 2022
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